林家たい平インタビュー「落語が世界を丸くする。」

林家たい平インタビュー「落語が世界を丸くする。」

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コロナ禍においても落語会をはじめとして精力的な活動を続けている落語家・林家たい平さん。
文化放送では日曜朝の『林家たい平 たいあん吉日!おかしら付き♪』でパーソナリティを務めています。
今回は、番組のお話に加え、落語の魅力についてお話をうかがいました。

※こちらは文化放送の月刊フリーマガジン「フクミミ」2021年6月号に掲載されたインタビューです。

目次

  1. 日曜の朝に家族がリビングに集まるような番組
  2. コロナ禍で試された落語の力
  3. 落語には自分が丸ごと出てしまう
  4. 落語で、ラジオで、「声」を届けるということ
  5. この記事の番組情報

日曜の朝に家族がリビングに集まるような番組

─ たい平師匠は長年文化放送にご出演なさっていますが、『林家たい平 たいあん吉日!おかしら付き♪』はご自身にとってどんな場所なのでしょうか?

たい平 実は「番組」をやっている感覚がほとんどないんです(笑)。日曜日の朝、目を覚ました家族一人ひとりがゆっくりリビングに集まってくるような感じと言えばいいでしょうか。風がそっと背中を押すように、聴いている人の一日をゆるやかに始動させるような番組でありたいと思っています。スタジオの空気も本物の家族のようです。アシスタントのアナウンサーさんも、現在の愛美ちゃん(坂口愛美アナウン
サー)でもう4 代目になりましたけど、歴代のアシスタントはみんな仲がいいんです。番組の担当が終わったからそれで「さようなら」というわけではなくて、コロナ禍の前は定期的に食事会を開いて、歴代のアシスタントが集まっていました。

─ 実家に帰省した姉妹が顔を合わせるような。

たい平 まさにそんな感じですね。結婚したり、赤ちゃんが生まれたり。それを歴代アシスタントという姉妹みんなで祝ってあげる。家族のような場所が、いい形で受け継がれてきていると思います。

コロナ禍で試された落語の力

─ この1 年は、コロナ禍で落語の公演にも大きな影響があったと思いますが、ご自身としてはどのような思いで高座に臨んでこられたのでしょうか?

たい平 人前で何かを演じるということがここまで困難になるとは思ってもみなかったですね。落語がこの世からなくなってしまうんじゃないかという不安に駆られたこともありました。それでも若い世代の噺家さんたちは「落語の火は消さない」という熱い思いを胸に、オンライン配信などの新しい方法をうまく取り入れていきました。じゃあ、僕自身がこの状況下で何ができるのかと考えたとき、新しい方法はいい意味で若い人に任せて、自分はやはり寄席でお客さんと同じ空間を共にすることを改めて大切にしていこうという結論にたどり着きました。
昨年、公演の中止が相次いでいた最中のことでした。(三遊亭)円楽師匠が福岡で開催する落語会にゲストとして出てくれないかと声をかけてくれたんです。円楽師匠は「お客さんもそんなに入らないだろうから、ギャラもないんだけど」と。声をかけてくれたことがうれしかったですね。落語会を開催する責任を取ることに誰もが二の足を踏んでいた状況で口火を切ったのはすごいことだと思います。僕個人としては、円楽師匠の決断について「間違えてもいい。バツをもらってもいいから、白紙じゃなくて、解答用紙に何か書いてみようよ」という意味だと受け取りました。

─ こういう状況だからこそ、落語が持つ楽しさや豊かさが求められているような気がします。

たい平 人間に備わっている生きる力は、つらいときや苦しいときこそ発揮されるものだと思っているのですが、落語にはそういう知恵がたくさん詰まっています。江戸時代の「お上」からの締めつけをものともせずに楽しく暮らす人々だったり、長屋での貧しい暮らしの中でも幸せを見つけながら精一杯生きている夫婦だったり。だから落語を聴くと、「こういう世の中だけど、まあ、がんばってみるか」という生きる原動力みたいなものが湧いてくるんですよね。

落語には自分が丸ごと出てしまう

─ 落語を「聴く側」の楽しみをお聞きしましたが、もう一方の、落語を「演じる側」の醍醐味はどういったところにあるとお考えですか?

たい平 例えば、自分自身の落語家としての成長を感じることがあったとしても、また数年経って自分の落語を聴き返してみると恥ずかしいものばかりです。落語はそういう難しさを伴う芸であり、その一方で、死ぬまで成長を続けられる芸であるともいえます。
「明烏」という演目があります。登場人物は、堅物の若旦那とその両親、そして若旦那を吉原へ連れて行く遊び人の二人組なんですが、僕が20 代の頃は、若旦那の気持ちに焦点を当てて演じていました。ところが、月日が経って自分に家族ができると、今度は両親の気持ちに感情移入するようにもなりました。登場人物に対して落語家がいろいろな角度で向き合うことができるというのが、落語の奥深さだと感じています。
五代目の(柳家)小さん師匠がよく色紙に書いていた「芸は人なり」という言葉があります。僕は今56 歳ですけど、56 年間何をしてきたか、どんな経験を積んできたかが丸ごと落語に出てしまう。そこに落語の怖さがあるわけですけど、その反面、思いがけない自分に出会う楽しみもあります。その楽しさが落語を続けていく原動力になっています。

落語で、ラジオで、「声」を届けるということ

─ それでは、今後の落語やラジオでの活動に関して何かメッセージがあればお聞かせください。

たい平 普段からよく言っているのは、亡くなった師匠方の音源を聴くのもいいんですけど、できる限り、今この時代を一緒に生きている落語家の噺も聴いていただければ、ということです。何が楽しいかというと、今聴いて、また10年後に聴くと、「ああ、この落語家はこんなに変わったんだ」と気づくことがあるんです。そして、聴く人自身も「あの頃にはわからなかった人生の機微が、10 年経って感じ取れるようになったんだな」と気づくこともあるでしょうし。そうやって今一緒に生きている落語家を聴き続けることが、お客さんそれぞれの人生にも豊かさを与えてくれるような気がしています。落語もラジオも、大切なのは「人の声」なんだと思います。人の声に癒されたり励まされたりすることって多いですよね。だからラジオも、聴いてくださる皆さんに「こんなくだらないことを喋りながら、今日もたい平たちは生きているんだな。よし、自分も前を向いて歩いていこう」と感じてもらえるような日曜日の朝を、これからもお届けしていけたらいいなと思っています。

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