目に見えない負担「メンタルロード」を考える アメリカの裁判が映した家事の現実
フリーライターの武田砂鉄が生放送でお送りする朝の生ワイド「武田砂鉄 ラジオマガジン」(文化放送)。8月19日(水)8時台のコーナー「ラジマガコラム」では、水曜前半レギュラーの組織開発コンサルタント・勅使川原真衣が、アメリカで起きたある裁判をきっかけに浮き彫りになった、家事の問題点などについて語った。
勅使川原真衣「『言ってくれればやったのに』って、まあまあ聞かないですか?
今日はこれを『メンタルロード』っていう言葉と合わせて考えてみたいと思います。
きっかけは、アメリカで今話題になっている、ある裁判から得たヒントです。
リンジー・クランシーという女性の裁判なんですけども、この方、2023年1月にマサチューセッツ州で、当時3人のお子さんを育てていたんですが、5歳、3歳、生後8ヶ月の我が子3人を、自らの手によって殺害してしまったという事件です。
争点は、殺害は認めていまして、当時の彼女に刑事責任を負える精神状態があったのかなかったのかという点になっています。一般的な事件と同様にですね、弁護側は『産後精神病』を患っていてとか、あと『双極性障害』を持っていたということで、現実を認識する力が失われていたんじゃないかって主張していますし、検察側は当然のことながら計画的な殺害だったのでは?というところで、証拠を集めてるわけなんですけども。
興味深いことがありまして、これ最近になってですね、検察側が出す証拠から『なんて母親なの?』というような反応よりも、『え、これ私なんだけど』とか『あ、これ我が身なんだけど』っていうような反応が、特にアメリカの母親たちの間で起きてるんですよね。これどういうことかというとですね、このリンジーが、事件の数ヶ月前に残したメモというのが裁判の過程で出てきていまして」
武田砂鉄「うん」
勅使川原「中身は何かというと、子育てにおいて、『あれは発達に良い』とかね、『あれをやると発達に悪い』みたいな情報がありすぎるとリンジーは言ってるんですね。私もすごいわかるんですけど。『自分の育て方で子供の発達を損ねてるんじゃないか』とか、『自分はやっぱり間違ったことをしてるんじゃないか』みたいな。『母乳をいつやめるか』みたいなことでも……この方、第3子の母乳を8ヶ月でやめたみたいなんですけども、それも『早すぎたんじゃないか?』とか、まあ、誰にも相談できないまま強く心配が募っていたと。
実際にメモには、その一挙手一投足、『自分のやってることが間違いじゃないか?』と思う考えが頭の中を占拠してしまっていて、もうおかしくなりそうだと。
また『健康的な思考でいられない』っていうようなことを残していたりとか。あと、これすごい印象的だったんですが、これもまた検察側が出した証拠の1つで、事件の数週間前に、夫と3人のお子さんと一緒に5人で博物館を訪れていた時の監視カメラの映像っていうのが今出てるんですよ」
武田「うん」
勅使川原「それ検索するとすぐ観られるんで私も観たんですけど。その旦那さんは博物館で見たいところに、ひょいひょいひょいって、手ぶらで、見に行くんですよ。
なんだけど、このリンジーはですね、当時8ヶ月だったお子さんを、体の前の部分に抱っこ紐で固定しつつ、第2子をベビーカーに乗せて押してやりつつ、もう一つ空いた手で第1子と手を繋ぎながら、ろくに、まあ見られないような状態でした。
この動画を見た世の反応っていうのは『え?これ私です』という風になったっていうところが非常に印象的でした。そこで思い出したのが『メンタルロード(Mental Load)』という言葉になるんですけども」
武田「メンタルロード」
勅使川原「はい。ロードは、『道(road)』じゃない方ですね。積載、積まれていく『ワークロード(workload)』のロードなんですけども。これ『UN Women(国連女性機関)』の日本協会のサイトがですね、ちょうど8月10日にある記事を出していたので思い出しました。
『なぜ女性はこれほど疲弊しているのか?ケア労働とメンタルロード』という記事なんですけども。これ、『メンタルロード』を簡単に言うと『目に見えにくい精神的・感情的な負担』という風に説明されています。
『目に見えにくい』というのがポイントなので、『お食事作りを女性が負ってて大変ですよね』とか、『おむつ替え大変ですよね』みたいな話ではないということなんですよね。そうじゃなくて『いや、おむつ替えは、僕もしてますよ』とお父さんも言うかもしれないんだけど、じゃあ、そのおむつがあとどれぐらい残ってるのかとかいうのを把握して、前もって『道であそこのドラッグストアで買っとこう』ということを考えたりとか。
食事も然りですよね。『明日、あれを作るには、あの牛乳はどれぐらい残っていたかな?』『前もってあそこで買っとこうかな』とか。予防接種なんかも同じで、『僕が連れてってます』っていうお父さんも多いと思いますけども、でも、いつ、前の第1期の注射を打って、『そこから6ヶ月空いたからそろそろ行かなきゃな』とか、そういうことをマネジメントしてるのは誰なのかっていうところ……。
これがやっぱり目に見えにくいケア労働っていうところで、最近強く言われてるところなんですよ」
武田「日本でもね、『見えない家事』みたいな言われ方をして、それが議論されたこともありましたもんね」
勅使川原「そうですね。家事労働自体シャドーワークと言われていた時代から、さらにもう一歩踏み込んで、行動を起こす前に『次に何が必要なのか』とかいうことを、日頃から観察して、予測して、それをちゃんと記憶して、さらに段取りをして。そして、自分一人じゃ全部できないので誰かに割り振って、その進捗を確認し……というところで『ケア労働ってプロジェクトマネジメントのような要素が強いよね』と強調され始めています」
この後も、勅使川原真衣さんのお話はまだまだ続きます。気になる方は、radikoのタイムフリーでご確認ください。
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