【アナコラム】斉藤一美「キャッチボール」
文化放送メールマガジン(毎週金曜日配信)にて連載中の「アナウンサーコラム」。週替わりで文化放送アナウンサーがコラムを担当しています。この記事では全文をご紹介!
▼7月17日配信号 担当
斉藤一美アナウンサー
埼玉西武ライオンズの黒田将矢投手に腰を据えて話を訊きました。高卒5年目…今季はことごとくピンチをしのぎプロ初勝利も挙げ、リリーバーとして目覚ましい成長を遂げています。今やブルペンに欠かせない存在です。188㎝の長身を利して思いきり投げ下ろす本格派ゆえ球団から将来性を買われていました。ある程度の時間をかけて成長することが許されているとはいえ、一日でも早く戦力となるための進むべき道を速やかに決めたところが彼の素晴らしいところです。

黒田投手はまず、二軍で共に汗を流した兼任コーチの内海哲也投手(現/巨人コーチ)が練習で誰よりも多く走り込む光景を見て”強靭な下半身を作り上げれば長く活躍できる”ことを思い知ります。そして、オフの自主トレーニングを行うにあたり様々な想像を巡らせました。
①たくさんランニングをする
②第一線で活躍するベテラン
②自分と同じ右投げ
③背が高い
…この条件を全て満たす選手である、中日ドラゴンズ/涌井秀章投手へ”弟子入り”を志願したのです。
自主トレ同行は昨季のオフで3年連続となり、技術論から打者との勝負における心構えまで様々なものを吸収してきました。その中で最も強烈な印象を受けたものは『キャッチボールで一球もミスをしない』姿だったそうです。「それまでは僕もちゃんとやっているつもりでした。でも涌井さんを見ていると練習の全てのメニューを粗末にしないんです。涌井さんで一番凄いのはキャッチボールです」と語りながら、黒田投手は”試合に繋げる練習の重要性”に気づいた喜びを噛み締めていました。
ピッチャーにとって大切な練習がキャッチボールであれば、アナウンサーに不可欠なトレーニングは何だろう…と私は思案し、答えを出しました。ほぼ間違いないでしょう。発声練習です。
湯船に浸かりながら”ア!エ!イ!ウ!エ!オ!ア!オ!”を拗音と濁音を交えてワ行まで繰り返す作業を重ねること三十年余り。ここ1~2年は音楽を聴きながら声を出して済ませるリラックスタイムにもなっていました。でも…涌井投手の真摯な取り組みに心酔する黒田投手の話を訊いてから、私のこのやり方では魂が込められていない気がしたのです。以来、全ての音をシャットアウトして浴室で声を出すようにしています。極限まで口を開け、一文字ずつ大きな声を出し、耳を澄ませて響き方を確かめるのです。”一球もミスをしないキャッチボール”を模倣したこの作業を地道に積み重ねていけば、まだまだレベルアップできると信じて続けていきます。
涌井秀章投手は先週土曜日の広島戦で6回1失点の相も変わらぬ丁寧なピッチングを見せ”ルーキーイヤーから22年連続勝利”というNPB史上三人目の快挙を成し遂げました。日刊スポーツの記事によると…それでも試合直後に「次が大事。しっかり調整したい」と余韻に浸ることすらしなかった上に、この一つ前の登板だった巨人戦の途中から「楽に投げるのをやめようと思った」ことを明かしていました。この日も彼曰く「最後はフラフラになりながら」も「体全体を使って投げる」ことを心がけていたそうです。「人間、楽をするとどんどん悪い方にいってしまう。だから最後まで気を抜かない」と自らへ言い聞かせるあたり、流石に多くの若手投手が心酔する師匠の振る舞いです。私も今後は彼から密かに学ばせていただきます。
【文化放送アナウンサー/斉藤一美】