スピード感を振りかざす人に要注意! 勅使川原真衣が考える「早さの倫理」
フリーライターの武田砂鉄が生放送でお送りする朝の生ワイド「武田砂鉄ラジオマガジン」(文化放送)。6月17日(水)8時台のコーナー「ラジマガコラム」では、水曜前半レギュラーの組織開発コンサルタント・勅使川原真衣が、最近よく聞かれる「スピード感」という言葉について疑問を呈した。
勅使川原真衣「最近『スピード感、スピード感』って聞くような気がしていて、ちょっと考えたいなと思っています。便利じゃないですか、スピード感。『スピード感を持って』って」
武田砂鉄「『スピード』じゃないんだもんね」
勅使川原「そうなんですよ。スピード『感』ってやつですよね。
反論がしにくい面白い言葉だなと思って見ています。何しろ遅いよりも早い方が一般的には良さそうに聞こえますし、グズグズしている人よりテキパキしている方がなんとなくシゴデキ(仕事が出来る人)っぽくも見えます。
あとは決断できないという人よりも決断できる人の方が、頼もしそうに見えるというのもあるような気がするんですが、この『良さそうに見える』っていうのは
なかなかの曲者かなというふうに思っております」
武田「うん」
勅使川原「何で感じたかと言いますと、つい先日、皇室典範改正をめぐる議論の中で与党側から相次いでこういう声が出ました。『時間的制約がある。だから今の国会で法改正を引き続き求めていくんだ』と、スピード感に似たような言葉でいろいろとお話しされていたんですけども、まあ非常に強い違和感を覚えました。
皇位継承や皇族のあり方に関わる制度。これは社会の歴史観であるとか家族観、ジェンダー観、民主主義の成熟度まで映し込むような、極めて重い制度ではないでしょうか。それを『時間的制約があるから』と急かせる時、そこで問われるべきなのは『いや、なんでそんなに急いでんの?』じゃないんでしょうか」
武田「だいたい、自分たちがとっととやりたいことは『時間的制約もある』と言って、やりたくないことは『まだ議論が必要だ』と言いますもんね」
勅使川原「本当にそうですよね。『時間がない、だから決める』というのは非常に一見するともっともらしいわけですけども、この論法は砂鉄さんもおっしゃる通りで『大事な問いをすっ飛ばしてる』ってことなんじゃないでしょうか。
時間がないのは“誰にとってなんですか?”“何の都合にとってなんでしょう?”
“急がないと困るのは誰なんですか?国民ですか?それとも政権の話なんですか?
制度の当事者なんですか?それともただ、議事日程を気にしているのか?”。
『スピード感』という言葉がかき消すのは、まさにこのあたりの問いなのではないかと考えています。
これ、防衛政策でも同じようなことを最近感じました。小泉防衛大臣が先週、『迎撃ドローン早期取得プログラムの呼びかけ』というのを民間企業に行ったんですよね。
で、そこでも強調されたのが『スピード』という言葉でした。
これ小泉防衛大臣のご自身のXの告知文をちょっと読みたいんですけども、
『拡散希望。今、防衛省ではあらゆる政策にスピードを重視して取り組んでいます。
特にドローンをはじめとする無人アセットについては、安価で大量に迅速に生産できる力が求められる時代になりました。そこでこの度、迎撃ドローンの早期取得プログラムを立ち上げました』というふうに書いていらっしゃいました」
武田「これ拡散希望って(笑)、これ、本当に書いたんですね。『拡散希望』って」
勅使川原「本当に書いたんです。二重括弧で」
武田「へぇー」
勅使川原「あの、安全保障環境を甘く見てたらいいというふうには思わないですけども……とは言えですよ、武器に関わる政策であるとか防衛に関わる政策、これは戦争と平和に関わる政策ですので、人命が関わってるってことですよね?
これに対して『早いこと』それ自体があたかも価値があるかのように語るっていうのは、
言語道断ではないでしょうか。
戦争を急いで進める被爆国があるでしょうか。こちら冗談じゃないなと思います」
武田「うん」
勅使川原「また、あの、これ私エモーショナルになってるだけではなくて、歴史認識の問題も孕んでいると思うんですね。
日本は言うまでもなく広島と長崎を経験した被爆被害の歴史を抱える国でありますが、
同時に忘れてはならないのはアジアを侵略した加害国でもあります。
その国の政治家が外交の場で、歴史への想像力を欠いた振る舞いをしているんじゃないかなと思しき場面がつい最近もありまして。
ええ、ここでまた小泉防衛大臣なんですけども、先日インドネシアのプラボウォ大統領との会談の場でですね、大日本帝国海軍の軍艦の模型を嬉しそうに渡していらっしゃいましたよね。
『大変喜んでもらえました』というふうにXにも書いてましたけども」
武田「あれもAI画像かなと思うぐらい、非常に失礼な行動だなと思いましたけどねえ」
勅使川原「本当にそうですよね。大統領のお顔もさすがに歪んでいらっしゃいました。これ一言で『非常識』です。
この程度の思慮の浅さの人物が防衛政策において、『安価に』とか『大量に迅速に』なんていう生産性の言葉を前面に出すなんて、本当勘弁してほしいなと。
周りの事務方もどうしたのかと気になりました。放ったらかしだったんですかね?
したがってですね、この『スピード感』とか『スピード・スピード』っていう人、『これ要注意だな』と改めて思っております。なぜならば、問題は早いか遅いかにないからです。
問題は『何かを省略しようとしている、何かをごまかそうとしている』からなんですよね。
早さっていうのは良い早さももちろんあります。
被災地への支援であるとか、差別や暴力から逃げたい方の保護であるとか、生活に困窮する方の給付。このあたり今、高市政権どうなってんのかなっていうのはありますけども、
このあたりも早さが要求される場面です。
それから医療や福祉の現場での対応。これも人命に関わってますので、遅れそのものが人を傷つけることがあります。ゆえに迅速さはある種『倫理』と言えると思うんですね」
武田「はい」
勅使川原「なんですけども、別の領域ではやっぱり早さが危険を伴うってことも認識しないといけませんよね。非可逆的な制度の変更であるとか、人権や自由に関わるルールの変更、それから軍事安全保障の拡張、マイノリティの方の人生を左右するような政策。
こうしたものは一度進めると、後から『やっぱ戻します』っていうのが難しいので、遅さにも一定の意味と倫理っていうものがあるのかなと改めて思います」
この後も、勅使川原真衣さんによる「スピード感」についての考察は続きます。スピード感を求められた時の対応についてのアドバイスもあるので、気になる方は、radikoのタイムフリーでご確認ください。
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